人生には理由がある
vol.12 ナリス化粧品 執行役員 研究開発部 フェロー/成田美穂さん
成田美穂/ナリス化粧品 執行役員 研究開発部
開発製品にかける、研究者としての想い
ナリス化粧品 執行役員 研究開発部 フェロー/成田美穂さん
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実家は化粧品店。技術や科学に興味津々の子ども時代
「実家が化粧品店を経営していたので、子どもの頃から化粧品は身近なものだったんです」と話す成田。しかし興味の対象は商品そのものというよりも技術にありました。
メーカーの担当者が父親に話す新商品の説明を「そんな技術があるんだ!」と楽しんで聞いていたと言います。一方で昔から理科や科学が好きで、白衣を着る仕事に憧れがあり、いつしか「研究職」と「化粧品」が重なり、大学を卒業後、ナリス化粧品で研究開発のキャリアをスタートさせました。
「今も、化粧品をユーザー目線ではなく仕事として捉えてしまうことが多く、他社製品を見て、これとこれを掛け合わせたら最先端技術になるかも!とワクワクしたり、お店で新しい研究成分が搭載された製品を見つけるとつい手に取ってしまいます。職業病ですね」
新しい発見があると、研究者として本当にハッピー
ナリスの研究開発部では、常に今以上にお客様の肌のレベルを上げるためには何が必要かを研究しています。毎年多くの新製品が誕生しますが、成田たち研究員は研究開発をどのように進めているのでしょうか。
「製品としての企画が決定してから研究を始めることもありますが、製品化の予定のない段階で自ら起案し研究を進めるケースもあります。企画が決まっているものに関しては、その内容に対し、化粧品としてどのようにアプローチできるのか、科学の言葉に変換することが難しいところでもあり、楽しさでもあります。今まで分からなかったことを見つけたりすると、本当にハッピー。嬉しくなっちゃいます」と成田。
一方で研究内容を自ら起案する場合は、学会で聞いた話や論文に目を通す中、「ここをこう繋げたらこれができるんじゃないか」と成功イメージが閃いたときが「一番ワクワクする瞬間」と言います。
1つの考えに固執しない。必要であれば「リセット」する事も大切
しかし、研究開発は楽しい瞬間ばかりではありません。うまく研究が進まないとき、どのようにモチベーションを維持しているのでしょうか。
「自分が本当に知りたいことをしているのでしんどいと思うことはあまりなくて、研究が進むと、楽しくてルンルンという感じ(笑)。いざ始めてみると思っていたのと全然違う結果がでてしまうときもありますが、私の場合は、打つ手がなくなったらその研究は一旦終わりにします。こうだと思ったけど、もしかしたらこっちかもしれないと思ったら、一旦やめて別の研究として一からやり直すようにしていますし、人にもそのやり方を薦めます。たとえばプランAで始めた研究が思い通りに行かなくても、一度始めた自分の研究をあっさり間違っていましたと方向転換するのは難しいんです。でも、そこで間違いを認めずにAに見えるA’を目指してしまうと失敗するケースが多いのではないかと個人的には思います」
1つの考えに固執してしまうと、視野が狭くなり、もう逃げられなくなる。一度リセットして、この実験結果は何を表しているのかをフラットになれる人の方が研究者に向いている、と成田は言います。
「研究者というと、1つのことを粘り強く追求するイメージかもしれませんが、諦める、切り替える、そんな見切りの良さも大切な気がします」
大切なのは一人の世界に没頭せず、他者の視点も取り入れること
さらに「研究者にはコミュニケーション力も必要」と成田。
「実は私もあまり得意な方ではなくて、うまくできずに失敗した経験もあります。たとえば国際学会でポスターセッション※をしたとき、私が外国の方とお話しする心の準備ができていなくて、日本人じゃなさそうだったら目をそらしたりしてしまい、最後まで誰も私のセッションに来てくれなかったことがありました。何をしに行っているのか目的を見失ってしまっていたんですね。知識や技術だけでは研究は完結しないと実感しました」
※ ポスターセッション:学会で発表者が研究開発の成果を1枚のポスターにまとめて見学者に対面で内容を伝えるセッション
また、ナリス化粧品の研究開発部の中でも群を抜いて多くの特許を取得しているという成田。
「出願すると特許庁の方とお話しする機会があり、どういう観点で審査をしているのか教えていただけるので、出せば出すほどケーススタディができます。論文も同じで、もしダメでも提出すれば “あなたのここがダメですよ”と審査コメントがもらえるので、できるだけ早いタイミングで外に出して、意見をもらってブラッシュアップするようにしています。若い研究員たちにも早いタイミングでどんどん外に出し、色々な人からフィードバックをもらって研究に役立てるようにアドバイスをしています」と話してくれました。
「多くの特許を取得することで、オリジナルの知見が社内に蓄積されて、それが独自性の高い製品を生み出すことにつながっていくと思います。特許・論文に限らず自分の研究の内容を、様々なバックグラウンドを持っている人たちに投げてみると何かしら返ってきますし、自分がつまらないと思っていることでも、そこが面白いんだよって言ってもらえることもある。自分一人で“できたぞ〜”なんてやっていても全然成長できないし、研究力を上げる材料にもならないんです。研究自体も自分一人ですることはほとんどなく、誰かと一緒にすることの方が多いですし、“こんなすごいことがあったよ”って、喜びを分かち合うのが楽しいんです」
研究者として、常に新しいものを発見していきたい
では、成田は特許を取得するような素材を一体どこから見つけてくるのでしょうか。
「特許を取る目的でやっているわけではないのですが、普段の生活で目に入った草木や花がヒントになることも多いです。なぜ植物の成分を使うのかというと、植物を見れば、含まれている物質の性質が分かりやすいんです。たとえば、セルグレースにはシマホオズキ果実エキスという成分が入っているのですが、これはホオズキの外側の皮が枯れているのに中の身の部分にはまだ水分があるのを不思議に思っていた時、女優さんが美容のために食べているという話を聞いて“これはなにかある”と思ったことがきっかけです。でも見つけたからと言って、絶対に使うぞと意気込んだりしないようにしています。製品化までにはいくつもの壁がありますから“もしかしたら”くらい引いた目で見てちょうどいいんです」
効果的な素材を見つけることはもちろん、研究開発において成田が何よりも重視しているのは安全であること。そこは「最低条件」だと話します。
「あとは、リニューアルのために研究をしないというのが会社のポリシーで、今までできなかった、またはまったく新しいものを生み出す研究をするようにしています。既存の製品を基準に考えてしまうと色々なことを見逃してしまうので、そこは研究者として常に新しい発見をすることにこだわっていきたいです」
これまで様々な商品の開発に携わってきた成田。その探究心は尽きることなく、現在、大学院の研究室に所属し、研究能力を磨いている。そんな成田が目指す化粧品とはどんなものかを尋ねると、「肌だけではなく、顔全体がきれいになる化粧品」とのこと。
「肌をきれいにしようとすると、じゃあ、皮膚の中の細胞で何が起こっているんだろうと考えますよね。そこから細胞の中の変化にまで進んでいくと、ミクロの世界に入っていって、最終的に顔全体をどうしたいのかってことを忘れがちになってしまうんです。まるでコルセットのように理想の顔の形に変えられるような化粧品が作れたら最高ですよね」
Message from Naris's laboratory
開発製品にかける想い
「よい効果が期待できる成分を見つけても、製品化までにさらに1〜2年かかることも少なくありません。まずは安全性試験をして、成績が悪かったら精製をかけたり、成分をバラバラにして毒性や安全じゃないところを除いていきます。どんなに効果があっても安全でなければ使えませんから、そこは難しいところです。たとえば、安全じゃないということをお客様が分かるのは、つけると痛いとか肌が荒れるとかですよね。そういうことが起こってしまうと効果が出るまで使い続けられませんから。なので安全性と効果の両立にこだわっています。
ヒアルロン酸の研究から誕生したレジュアーナはザクロの花の開花時期が他の植物と違う夏場に咲くことに着目しました。植物は動くことができず、その為その環境に適した成分を持っているので、“夏場に咲くなら紫外線に強いんじゃないか”という疑問から生まれたシリーズです。」
「また、今年の2月にリニューアル発売したセルグレースのクリームはオレンジ色のクリームと乳白色のクリームの二層式になっていて、2つのクリームを使用前に混ぜて使うことで“肌表面の潤いを守る”“角層深部に潤いを与える”2つの効果を発揮します。使っていただく方には手間をかけてしまうのですが、納得のいくできあがりになったと思います。
ナリスの研究開発のメンバーは、上司や会社がどう評価するかといったことよりも、使ってくださるお客様がどう感じるかをいつも気にしています。ちょっと使い方がややこしかったり、説明も複雑で簡潔ではないにも関わらず、ご理解くださった上で使っていただいているコメントを受け取ると本当に嬉しいです。いつもありがとうございます」