2022.11.01

Toggles between On and Off

フラワーショップ farver / 渡辺礼人さん 安樹子さん

People

仕事と家の時間に
オンオフをつける

渡辺礼人さん・安樹子さんご夫婦が語る
除いたことで、生まれる余白
vol.09 前編

渡辺礼人・安樹子 / 『farver』オーナー

2010年、中目黒に『farver』をオープン。『四季の花をその時代の空気と共に料理する様に…』をコンセプトに、綿密なカウンセリングから『その人のライフスタイルに溶け込む花』を提案。生産地を巡り、生産者の想いを知るところから始まる徹底したセレクトで、日本の四季の素晴らしさを伝える花が並ぶ。現在はショップワークを中心に各種催事装花、広告撮影、商品開発やセミナー等、花を通した活動の幅は多岐に渡る。

farver
〒153-0061
東京都目黒区中目黒3-13-31 U-TOMER 1F
03-6451-0056
月~日 12:00~19:00
定休日 火曜日、第3月曜日
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仕事と家の時間にオンオフをつける
farver 渡辺礼人さん 安樹子さん

余分なものを取り除き、新たに何かを吸収する小さなアクションが、
よりよい未来を引き寄せてくれるかもしれません。
「除いて、与える」をテーマに、
しなやかなに生きる方たちをクローズアップするこの連載企画。

今回は、日本の四季と、暮らしに花があることのすばらしさを伝える
花のセレクトショップ『farver』を営む渡辺礼人さん・安樹子さんご夫婦が、
愛してやまない花の仕事と、プライベートを両立させるために決めたルールについてお話いただきます。

思い切って仕事と家の時間を区切るという選択は、家族の絆を深め、
花を通して描きたい未来を見つめ直すことにつながったのでした。

小さな貸しスペースから始まった夫婦の夢

美容師をしていた渡辺礼人さんが花屋になろうと思ったのは、大きな決断をした後にはずみで浮かんだ、奇跡のような発想がきっかけでした。

「期待を胸に抱いて上京し、美容師が天職なんだと鼓舞して働いていたけれど、挫折してしまったんです。これこそ自分の道だと半ば思い込ませていた部分があったのですが、それを手放して、次に何をやろうかと考えたとき“洋服の花柄は好きだな”ということがポンと頭に浮かんで。じゃあ、花屋なんてどうだろうと軽い気持ちで働き始めたのですが、思いのほか、花の仕事が好きになってしまったんですよね」(渡辺礼人さん)

始めは花の梱包や発送、配達などの雑務ばかりだったものの、ものすごい物量の中、毎日花の水換えをしていくうちに、まったく無知の状態から、毎日ひとつ、新しい花の名前を知ることができ、“これもかわいい” “これも好き”と花への想いを深めていったそう。

「そこで数年修行を詰んだあと、今から12年前に、花の良さを自分と同世代やもっと若い人たちに知ってもらえるようなお店を作りたいと、中目黒にテントを張った小さな花屋『farver』を始めました。見切り発車で、お客さんもゼロからのスタートです。だけど、花を通して何かを表現していきたいという熱い想いだけはありました。妻ともそんなタイミングで知り合い、交際することに。それから2年ほど助走をつけて、室内の店舗に移行したタイミングで籍を入れることにしたんです」

渡辺礼人さんの、花へ注ぐ情熱に惹かれて、サポートし続けてきた渡辺安樹子さん。

「出会った当初、主人は家がなく、お店のストックルームに寝泊まりしているような状態でしたけど、彼の作る花を心からリスペクトしていました。そんな僕とよく結婚してくれたね、なんて主人は笑って言うけれど、私の母も花が好きで、家には摘んできた花がいつも飾ってあるような環境で育ちました。花はもともと大好きだったから“お花屋さんのお嫁さんになるんだ!”という、幸せな気持ちでいっぱいのスタートでした」(渡辺安樹子さん)

夫婦の間にできた溝 取り除いてくれたのは子供の存在

『farver』の根底には“生活に馴染む花”を届けたいという思いがあります。

「冠婚葬祭であったり、ギフトとして花を贈ることも、もちろん素晴らしいことなのですが、特別な日のためのものだけでなく、日常の中に花を取り入れることを楽しんでもらえる花屋になりたいと思っています。『farver』を初めてまだ間もない、2011年に東日本大震災が起こりました。世の中が暗くなったときこそ、明るいものを見たくなるもの。花はあのとき、心に明りを灯してくれました。それに重ねてコロナ禍でも、家に花を飾り、心を癒したという方も多くなったと思います。僕が理想とするのはそんな“生活に馴染む花”。この数年で思い描いていたような世の中にどんどん近づいていることを嬉しく思っています」(渡辺礼人さん)

花を求めてやってくるひとりひとりに、最も相応しい花を。
花と真っ直ぐ向き合い、自身の考えるフラワーデザインを体現していく礼人さん。『farver』は次第に大きくなり、仲間も増えていきましたが、人生は常に山あり谷あり。

「いまから5、6年前にこの家を建てて引っ越した年は大変な1年でした。すれ違いが重なって、スタッフの気持ちを束ねられず、そのせいでお互い常にイライラして、夫婦の関係もぎくしゃくしたものになっていきました。夫婦で同じ仕事をしていると、その話題から離れられなくなるんです。子供が家にいるので、場所を変えてケンカをするのですが、ヒートアップするとお互い声も大きくなってしまって。そうすると子供が “ナナ(愛犬のイングリッシュ・コッカー・スパニエル)がイタズラしているよ”と言って仲裁しようとするんです。子供に気を使わせていることに気づいたとき、これじゃいけないと思って。それ以降“家に仕事の話は持ち込まないようにしよう”と決めました」(渡辺安樹子さん)

家は家族と語り合う大切な場所

お子さんと愛犬ナナの存在が、心をニュートラルにしてくれたという渡辺礼人さん・安樹子さんご夫婦。
ルールを決めたあとは、自然と会話が増えていきました。

「彼女は育児に、僕は仕事にそれぞれ一生懸命に打ち込んでいたから、一緒に住んでいても生活の時間に違いはあったし、振り返ると、そんなに会話って多くなかったと思うんです。それがあの大変だった1年をきっかけに、どんなお店にしたいかという方向性も、家族とのコミュニケーションにおいても、見直すきっかけになりました」(渡辺礼人さん)

お店が18:00に閉店した後は家族の時間。3人と1匹の生活は、日々小さな幸せにあふれています。

「家族揃って夕食をとったあとは、3人でテレビゲームすることもよくあります。娘はひとりっこなので、できるだけ一緒に何かしてあげたい。最近はアニメのワンピースを一緒に観て、感動して思わず泣いてしまいました。お風呂上がりはナリス化粧品のアトデリエのスキンケアシリーズを娘と共有で使ってスキンケアタイム。モイスチャーミルクは伸びのよいテクスチャーで、化粧水を使ったあと、顔だけでなく全身に使用できるのが良いですね。バスエッセンスも、香りも良くてとても気持ちがいいんです」(渡辺安樹子さん)

花に乗せて伝えたい想いも “除いて、与えた”からこそ力強いものに

『farver』が他に類を見ない花屋であるのは、渡辺礼人さんの徹底したこだわりがあってこそ。

「仕事になると僕はスイッチが入るタイプ。そのせいで空気がピリッとしたとしても、家に仕事の話を持ち込まないと決めたおかげで、強制終了できる。クールダウンする時間があるので、次の日、何を改善すればいいかということを冷静に話し合うことができるんです。僕たちの目指す花屋は、“生活に馴染む花”。訪れてくれる方々のライフスタイルにまで想いを馳せて、その人にぴったりだと思う花を、僕たちなりのフィルターに通して提供するのが仕事です。ものごとを冷静に考えられるようになると、視野が少しずつ広がっていって、自分のことだけでなく、他の人のことを考えたり気を配ったりすることができるようになっていく。そうすると、届けられるフラワーデザインのクオリティも上がっていくと思うんです」(渡辺礼人さん)

渡辺礼人さんを一番近くで見守る安樹子さんの目にも、礼人さんの変化は見て取れるように分かりました。

「『farver』はもともと主人がひとりで始めたものに対して私が後から入った形でしたし、この家も、子供が生まれたことで“何か残してあげたい”と考えた主人がほとんど内容を決めて建てたものでした。彼を信頼しているので、好きなようにやってもらっていたのですが、試練の1年を越えてルールを設けたことで、自分の意見も主人に伝えられるようになりました。主人は、出会った頃に戻ったというか、花を通して何をしたいのか初心に帰って考えていると感じます。仕事と家での時間を区切ることで、改めてお互いの良さに気がつくことになったと思っています」(渡辺安樹子さん)

家族がもっと幸せになるように、夫婦が除いた「家での仕事の話」は、渡辺礼人さん・安樹子さんご夫婦を変えただけでなく、巡り巡って、『farver』に訪れる人それぞれの、大切な暮らしを彩る表現となり、多くの豊かさとなって与えられ、還元されているのでした。

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Staff

Photographer : Mitsugu Uehara
Writer:Ai Watanabe
Editor : Ayano Homma ,Marika Tamura (Roaster)
Director : Sayaka Maeda (FLAP,inc.)
Assistant Director : Mone Murata (FLAP,inc.)