人生には理由がある
vol.17 前編
宝塚OG・エンターテイナー・脚本家/天真みちるさん
天真みちる/宝塚OG・エンターテイナー・脚本家
「自分の価値は自分で探す」
やっと見つけた輝ける道
宝塚OG・エンターテイナー・脚本家/天真みちるさん
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宝塚音楽学校を受験するも準備不足で失敗。
戦略を立ててリベンジへ
「なんてかっこいいんだろう…!これって女性なんだよね?本当に女性なんだよね?って何度も思いました」。そのトキメキは、それまで夢中になっていたブラピやディカプリオをはるかに超え、すぐに宝塚音楽学校の受験を決意。ところが受験会場で更なる衝撃を受けます。「合格する気満々だった」という天真みちるさんが目にしたのは、全国から集まった容姿端麗、歌も踊りも完璧、キラキラとしたオーラを放つ乙女たち。さらにほぼ全員が受験スクールなどで事前対策をして試験に挑んでいました。何も準備をしていなかった天真みちるさんは愕然とします。「そこで初めて、タカラヅカっておばあちゃんの許可で入れる所なんかじゃないんだって知りました(笑)」。当然ながら結果は一次で不合格。天真みちるさんは翌年のリベンジを誓い、バレエや声楽などさっそく準備を始めました。
同じ轍を踏まないよう研究を重ねた天真みちるさんの戦略は、トップを目指すのではなく「この子をとったら面白いかも」という枠を狙うこと。「歌も踊りも上手で成績もいいスター候補生ぞろいの合格者の中でも、トップになれるのはほんの一握り。しかも何年も時間がかかります。それより、二番手の成績でも必要とされる残りの枠を狙ったんです」。その戦略がハマったのか、2度目の受験で見事合格。バイトと稽古に明け暮れた1年間の苦労が報われ、達成感に浸っていた天真みちるさんでしたが、同期たちはすでにスター街道に向けて準備を進めていました。「合格に浮かれて、そのことに全く気づいていなかった」と天真みちるさんは振り返ります。
2度目の受験で合格するも新たな壁にぶつかり、挫折
無事、タカラジェンヌへの道を歩き出した天真みちるさんは、長年住みなれた地元を離れ、関西へ。初めての寮暮らしや厳しい試験など戸惑うこともありましたが、順調に音楽学校を卒業し、晴れてタカラヅカに入団しました。配属は花組。新人公演では「名前のついた役」を獲得し、着々と舞台をこなしていきますが、入団3年目で大きな壁にぶつかります。
全国ツアーや小劇場で公演される、どの作品にも出演者として選ばれなかったのです。出演しない研究科生※は公演中の約3ヵ月休みとなるため、全員が集まる午前のレッスンが終われば、午後からそれぞれの稽古に向かう選抜メンバーたちを横目に1人で帰宅。そんな自分が惨めで恥ずかしく、1人でいると気持ちがどんどんネガティブになり、「自分はここで必要とされていない。もうやめよう」と、実家の両親に電話をかけると「いいよ。今まで夢のためにかけたお金をキャッシュで今すぐ返せるなら」との厳しい励ましが返ってきました。
その言葉を聞いて、自分がどれだけ親や周囲に支えられていたかを思い出し、すぐに逃げ出そうとしたことを猛省。心を入れ替え、「役がないからやることがないわけじゃない。必要とされていないなら、必要とされるようになるしかない」と、舞台の上での猛アピールをはじめ、「配役に困ったときは全部私に振ってください」と直談判したり、上級生や演出の先生に存在を覚えてもらうために、宴会の余興芸も身につけました。
※研究科生:タカラヅカでは音楽学校を卒業し、入団した後は退団まで「研究科生」となる。
中でもタンバリンを使う芸は宴会で大ウケし、「タンバリン芸人」の異名がつくほどに。
一方、舞台上では「いついかなる瞬間に誰から見られてもウインクで応える」という独特のアプローチ方法を思いつきます。常にウインクをしながら踊り続けていると、ファンから「あんた、ラインダンスの時めっちゃウインクしてるやろ。おもろいわ」と声をかけられるようになり、最終的にはウインク一つで笑いがとれる、タンバリンに続く天真みちるさんの持ち芸のひとつとなりました。