垣内彩未さんが語る
除いたことで、生まれる余白
vol.13 前編
垣内彩未 / モデル
かけがえのない人を
大切に思うこと
モデル / 垣内彩未さん
表現したい気持ちが空回り。
自分に自信が持てなかった
幼い頃から芸能界に身を置いていた垣内彩未さん。仕事を優先することが当たり前の生活を何年も送り、多忙を極めた20代の頃は、休みが次いつあるのか分からないような時期もあったそう。結婚、出産を経てライフステージが変わり、ふと自分という存在を振り返ったとき、焦りを感じる瞬間が訪れたと話します。
「モデルの仕事は大好きで、やりがいも感じていたけれど、一方で、自分には何かが足りないと感じることもあったんです。学生時代も仕事をしていたので、部活などで何かに打ち込んだ経験もないし、これといった特技も趣味もない。自分てつまらない人間だな、と思ってしまって。私のことを、明るいとかポジティブとか言ってくださる方もいるのですが、実は自己肯定感が低いタイプなんです。これは大人になって気づいたこと。直したいと思っても、人格形成された今から軌道修正するのは、なかなか難しいですよね。意識的にポジティブな行動や思考に持っていくことはできるけれど、根が真面目なので、仕事においてもみんなが望んでいることを深掘りして“大丈夫だったかな”って気にしすぎてしまうし、友人同士で集まって団欒する時も“彼女、あまり喋っていなかったけど、何か傷つくことを言ってしまっていないかな”って気を揉むことも。周囲の反応に敏感になったり、自分への評価が低いことは必ずしも悪いわけではなく、人に気を配れるとなどというメリットもあるから、すべてを悲観するわけじゃないけれど“私は何もできてない。今の時代、もっと新しいことをして自分を表現していかなくちゃ、でも何からどう始めればいいんだろう?と悩んでいたんです」
苦手だという思い込みを取り払い、
私を走らせてくれた友人たち
そんな風に、小さな悩みや焦りが浮かび上がって膨らんでいたコロナ禍、垣内彩未さんは、YouTubeチャンネルを開設することに。機械を触るのは大の苦手だったという垣内彩未さんにとってまさかのチャレンジに導いたのは、彼女の話す才能を見抜いた友人の強い後押しでした。
「私って、SNSの静止画だと、クールな印象で受け止められることも多いんです。友人は、本来の私らしさは動画の方が生きると思ってくれたみたいで。“喋るの得意でしょ?絶対YouTubeやりなさい!”って自信を持って勧めてくれるから、自分にそんなことできるのかな……?という不安も抱えつつも、行動してみることにしました」
想像もしていなかった展開。何も分からない状態から、その友人のアシストを受けて、カメラなど必要なものをすぐさま揃え、動画作りをスタートさせました。
「 “私が知ってることは一つ残らず全部教える。あなたはこだわりが強いから、編集も自分でやれるようになったほうがきっといいものが作れるはずだから覚えてね”って。何もできない私に、友人は自分が知りうるすべてのスキルを教えてくれて、動画作りも手伝ってくれました。そうして、3本目のアップを境にすべて自分で編集作業まで行えるようになりました。まさか自分でこんなことができるようになるなんて、友人には本当に感謝しているんです。私自身にすごいところはないのだけれど、本当に人には恵まれているんです」
信頼する夫の心からの言葉で、
自分のしていることに確信が持てた
新しい何かを始めたくて、表現の舞台として選んだYouTube。週に1本のペースでの配信は、垣内彩未さんの楽しみになっていきました。
「だけど、YouTubeを始めた頃、フォトグラファーである夫に褒めてもらえることはないだろうと思っていたんです。夫は職業柄、ものづくりにおいて審美眼を持っている人。アートなどのクリエイティブ活動に対してとても真摯に向き合っているんです。だからこそ、簡単に良いとは言ってもらえないんじゃないかって。そんな夫が“すごくいいよ”と評価してくれたことに、驚きと嬉しさがありました」
アートにおいて、ご夫婦は価値観が似ているからこそ、夫がくれた言葉にジンとしてしまった垣内彩未さん。
「夫はこうも話してくれました。私は、自分が何も生み出せていないと思い込んでいたけれど、“もう十分、やってるよ。頑張ってるよ”って」
それはクリエイティブの良し悪しについて、嘘をつかない人の言葉だからこそ、ストンと音を立てるように、垣内彩未さんの腑に落ちる言葉でした。
「手を差し伸べてくれた友人や夫のおかげで“私、頑張ってるな”という自信をつけることができた。そう意識も変わってきて、頑張っている自分をもっと大切にしてあげたいという、気持ちも芽生えるようになったんです」
自分を大切にしてくれる人を、
私も大切に思う
垣内彩未さんには、今から3年前に始めたファッションブランド『not lonely』のディレクターという肩書きもあります。デザインや、イメージを伝えるルックブックのディレクションも行い、スタイリングなどの細部まですべて、自分のヴィジョンと世界観を詰め込んだ大切なブランド。これもまた、友人の手助けにより実現した夢でした。
「中学時代からヴィンテージショップに通いつめるほど服が好きで、当初からオンリーワンのものを身につけることに喜びを感じていました。服は着るほど劣化していくものだけれど、それを経年変化としてとらえ、普遍的なものとしての価値を持つ服が作りたかったんです。あるとき、その夢をアパレルをやっている友人に話したら“だったら一緒にやろうよ!”と乗ってきてくれて。気軽に話したことだったのに、私のやりたいことに共感してくれた友人がいてくれたからこそ、『not lonely』は誕生したんです。撮影は夫がしてくれているのですが、彼もまた、やりたいことに共感してくれていて。本当に私は、人に恵まれていると思うんです」
道が開けていくのは、自分の力ではなく、自分の周囲にいてくれる人たちのおかげだと重ねて話してくれた垣内彩未さん。すべての人間関係のベースには、ひとりひとりに対する深い感謝の気持ちがありました。
「自分を大切にしてくれる人のことを私も大切にしていきたいと強く思っています。世の中にはいろんな人がいるから、全部の人間関係をうまく回していこう、なんて思わなくていい。気にしやすい性格から、価値観が合わない人と上手に話せなくて、反省してしまうこともあったけれど、本当に繋がっていたい人のことを、全力で大事にできればよいと思うんです。そんな人たちと素晴らしいことをシェアしていく生き方をしていきたいなって」
自分の努力を自身では認められない気持ちを除き、新たな表現の場を与えてくれたのは
本物の愛と思いやりで繋がった友人や家族との絆。
それが、垣内彩未さんの、「除いて、与えた」もの。
後編では、垣内彩未さんが愛してやまない家族のストーリーを軸にお届けします。