2022.10.18

Giving back to the local

『五穀祭菓をかの』の6代目女将 / 榊萌美さん

People

自分を育ててくれた地元への恩返し

榊萌美さん /『五穀祭菓をかの』6代目女将
人生には理由がある vol.08

榊萌美 / 『五穀祭菓をかの』6代目女将

埼玉県桶川市にある、1887年(明治20年)創業の和菓子老舗「五穀祭菓をかの」の6代目女将・榊萌美さん。社会経験のため、アパレルショップのアルバイト店員を経て、20歳のときに「五穀祭菓をかの」で働き始める。そこから試行錯誤して失敗を重ねながらも、大人気商品の葛きゃんでぃ、かき氷、フルーツ大福など、若い女性ならではの視点で商品開発を行い、大赤字が続いていた同店を黒字化することに成功。さらに、年々洋菓子と比べて需要が減っていく和菓子の現状を目の当たりにする中で、若い世代に馴染みの薄い和菓子の可能性を広げるため、新ブランド「萌え木」を立ち上げ、精力的に活動している。現在は、SNSも活用し、和菓子の入り口を広げることで、和菓子業界全体が盛り上がるように注力している。
榊萌美さんのinstagramはこちら

埼玉県桶川市にある1887(明治20)年創業の老舗和菓子店
『五穀祭菓をかの』の6代目女将・榊萌美さん。

「誰かの役に立ちたい」という思いを原動力に、
赤字続きだった和菓子店をV字回復に導きました。

黒字化までのエピソードや経営者としての覚悟、家族や従業員、
お客様の幸せのために力を尽くす理由について伺いました。

自分を育ててくれた商店街に恩返しをすべく、20歳でお店を継ぐことを決意。

元々、人の役に立つ仕事がしたかったという榊萌美さん。
「人がすごく好きで、自分が努力して手に入れるものよりも、人と関わって生まれる“ありがとう”という感謝の言葉に幸せを感じるタイプ。それが私の一番の喜びなんです。“人のために”というと偽善者っぽく聞こえてしまいますが、結局、自分のためなんですよね」

高校生の時「教師になって生徒の力になりたい」と考えて大学の教育学部に進学するも、進路をどうするか迷っていました。そんな折、母が入院し、父と母が「お店をどうしようか」と話していたのを耳にし、お店がなくなったときのお客様の気持ちや従業員の行く末が気がかりになりました。さらに別の日、小学校時代の同級生の母親から「お店は継いだの? 萌ちゃんが継ぐのをみんな楽しみにしているよ」と言われたのを機に、小学校の卒業式の映像を見返します。そこには、「お店を継ぎます!」と胸を張って公言する幼い日の榊萌美さんの姿がありました。当時、大学にも行かずにブラブラしていた榊萌美さんは、急に自分が恥ずかしくなり、「家族や従業員、お客様のために頑張ってみよう」と思い立ち、大学を辞めて実家の和菓子店を継ぐことを決めたのでした。

テレビで紹介されて大人気! 葛きゃんでぃ
和菓子に使われる葛粉で作った葛ゼリーを凍らせた一品。“溶けない”ので子供でもこぼさず食べられ、シャリッ&ぷるんという食感コントラストが楽しい!冷凍保存で賞味期限が半年間と、日持ちするのも魅力。

自分の不甲斐なさが生んだ“失敗”と、自分の人生をかけて戦う“覚悟”

社会経験のため、アパレルショップのアルバイト店員を経て、20歳のときに『をかの』で働き始めた榊萌美さん。当時はお店の業績が振るわず、10年間赤字が続いているような状態だったといいます。さらに、お客様といえば近所の年配の方たちばかりで、榊萌美さんが継いだあとも徐々に客足が減退の一途を辿っていました。

その後、お店の再建にあたり商品の見直しを行っていたとき、お客様にあまり人気がなかった葛ゼリーに着目。幼少期に凍らせて食べるのが好きだった思い出がヒントになり、溶けないアイス「葛きゃんでぃ」として地元のお祭りで試しに販売したところ、2日間で1000本を売り上げたため本格的に商品化。1年後に、たまたまテレビの取材に取り上げられ、なんと1日で2500件もの注文が舞い込みます。これによって店自体の知名度も上がり、2020年には10年ぶりの黒字化を達成しました。

「本来なら喜ばしいことですが、生産が追いつかず、従業員にはムリをさせてしまい、何人もの従業員がお店を去ってしまいました。また、ネット販売に慣れていないこともあり、ミスが多発し、お客様にも多大なご迷惑をかけました。お店のために頑張ってきたはずが、自分の不甲斐なさによって悪い方向に進んでしまったんです」

そしてこの失敗が、人生をかけて家業に向き合い、自分が関わる人たちの幸せを守らなければならないという“覚悟”につながったともいいます。

「ミスもトラブルもすべて私の責任ですし、恐さもありますが、それで会社が傾くのであれば、私が寝る間を削って働けばいいだけだと思えるようになりました。渦中はとても大変でしたが、乗り越えられたのは、諦めずについてきてくれた従業員がいたからです。私は苦手なことだらけの人生の落第生。そんな私を受け容れてくれる仲間がいるからこそ、“自分に関わる人が一秒でも長く笑顔でいられる時間を増やしたい”と考えました」

地元のお客様と歩んできた『をかの』。だからこそ、“変わらない”という選択。

「先日、『をかの』のこれからについて悩んでいた際に、70年以上お店に通ってくださる80代のおばあちゃんとお話をしました。私が会ったこともない曾祖父の代だった戦時中に、妹さんをおぶって月に1度和菓子を買って食べるのが幸せだったこと。祖父の代になり、クッキーなど洋菓子を取り扱うようになってからは、地元でハイカラなものが購入できることが心から嬉しかったこと。父の代には、お気に入りのお菓子を10個買おうとしたところ、9個しか店頭になかったため、残りの1個をわざわざ自宅まで届けてくれた気遣いに感動を覚えたこと……。お客様の人生にいくつもの『をかの』とのエピソードがあることを教えていただいたのです。さらに、“あなたの代になって変わったでしょう”と切り出され、お叱りを受けるかもしれないと思ったのですが、“私が生きてきた中で、一番好きなお店がこの商店街に残っている。それはこの上ない幸せ。残してくれて本当にありがとう”と感謝の言葉をいただいて。お客様を目の前にして号泣してしまいました」

この瞬間、自分の使命に改めて気づいたという榊萌美さん。“私がやりたいことではなく、お店を愛してくれるお客様のためにこそ、お店を残すべき”と……。

「『をかの』は地元の方に愛され育ってきたお店。だからこそ、お客様の声が聞こえる規模で運営し、本来の目的だった“地元の人に恩返しする”店舗にしていきたいのです。なので、私自身のチャレンジは『をかの』とは切り分けて、姉妹ブランドの『萌え木』で行っていきたいと思います」

若い感性を生かした商品開発や情報発信で同店をV字回復させた榊萌美さんですが、135年続いている老舗和菓子店を未来へつなぐ重みも感じているといいます。

「和菓子は目的がないと選ばれないことが多いですが、ケーキのようにもっと日常に溶け込むようにしていくのが私の目標です。そうやって全国の和菓子屋さんに足を運ぶ人が増え、業界全体を盛り上げることができたら嬉しいですね」

公式YouTubeチャンネルでは、インタビュー動画をご覧いただけます。

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そんな榊萌美さんのナリス化粧品のお気に入り製品と、“イキイキとした美しさ”の秘訣について伺いました。

「コンク(ふきとり化粧水)をコットンに浸して肌をすべらせたら、汚れが目に見えて驚きました。また、次に使用したルクエのローションには一番感動しました!普段使用している化粧水ってなじまないのですが、これはすごくなじみが良くて。これまでスキンケアは“手軽に済ませたい派”でしたが、ルクエを使ってスキンケアやひと手間かける大切さに気づきました。」

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