長尾悦美さんが語る
除いたことで、生まれる余白
vol.06 後編
長尾悦美 / 高島屋ウィメンズファッションクリエイティブディレクター
納得できるモノ選びは、
未来の私を想像させる
ファッションクリエイティブディレクター / 長尾悦美さん
永く愛するモノの基準
「ジュエリーは、とっかえひっかえではなくて、肌に馴染むまで同じペースで身につけていたいタイプ。毎日お守りのように手元にあるFUMIKA UCHIDAのメキシカンシルバーのバングルは、2014年の彼女のファーストシーズンのときに購入したものなのですが、今では職人がいなくなり、作れなくなったそうです。私は手が小さいので、着けたときの手とのバランスや、肌の色に合うかを基準にチョイス。友達に似合っていて素敵だなと思っても、それが自分にもマッチするとは限らないから、自分とジュエリーの相性を客観的に判断しています」
長尾悦美さんが洋服を選ぶときの基準はマテリアルやテキスタイル。素材に愛情のあるものしか身にまといません。
「まずは生地を見て、その次に、デザインのよさとスタイリングに落とし込めるかを確認していきます。今日はもともとナイトウェアとして作られたヴィンテージ品をワンピースとして着ているのですが、こういったギャザーやレースなどフェミニンなものも好き。素材に品のあるものに惹かれます」
未来の私が着たい服に絞る
とはいえ、持てる服の量には上限があるもの。四捨選択しなければなりません。
「素晴らしいモノとの出会いに恵まれてきた人生なので、昔は、欲しいものが多すぎるということがありました。ですが、収納には限界があるので、家の収納にきちんと収まる分以上に増やさないように制限しています。展示会での個人オーダーも控えたり、役目を終えたものは捨てる勇気を持つことも大切。そうやってコントロールしつつも、今より大人になった未来の自分が着ていることを想像できる服は、間違いがないモノだと確信しているので、新しく迎え入れています」と、長尾悦美さん。
「好き」を確立させたもの
ファッション業界に強く求められ続ける長尾悦美さん。その稀有なセンスは、何から育まれたものなのかについても聞いてみました。
「高島屋にバイヤーとして入社する前は、2つのセレクトショップで働き、そこでファッションの基本をしっかりと学べたことが大きいです。それぞれにアイデンティティを持っている会社で、先輩方からたくさんのことを教えてもらいました。それに加えて、服好きの両親を持つ自分のバックグラウンドも影響しています。幼い頃に亡くなった父が残してくれたアメカジがルーツのものや、70 ’sの今でいうヴィンテージのアイテムが身近にあり、私のファッションの価値観のベースになっているんです」
大人になるほど、“除いて、与える”装いに
ストーリーを持つ、個性のある服を選ぶことも多いため、ヘアメークは抜け感を出すことを長尾悦美さんは意識しています。
「全部頑張らないバランスがラクだし自分らしいと思うから、ネイルもしていないし、メークも軽め。若い頃は金髪にしていたこともあったけど、派手なカラーリングもしなくなりました。そんな、除かれた精神のヘアメークでも、リップだけは自分のアイコニックな部分だと思っていて。赤リップをすると“自分になれた”という気持ちになります。いつもなら赤を選ぶのですが、今日はファッションに合わせてヘルシーなブライトオレンンジに。Vietaプロテクトヴェール カラーリップはマスクにも付きにくいし、重くないテクスチャーが好み」
メークは除くことを基本にし、その上で自分らしい色を与えて、自分を表現してくれた長尾悦美さんに、ナリス化粧品の美容理念である“除いて、与える”という言葉をどう解釈するか、最後に聞いてみました。
「何かを間引き、空間に余白を持つことだと思います。スペースがぎちぎちだと、ファッションにおいても重要な、遊びの部分が表現できなくなってしまいますよね。生活にも同じことが言えて、余白を作って息抜きすることと、インプットして頑張ることも両方が必要なのと一緒。年齢を重ねるほどに除いていくことの大切さが分かってきて、究極的にはTシャツとデニムだけでかっこいい女性になれたらいいなと思うけれど、“除いて、与える”ことを続けていけば、いつかそうなれるような気がしています」
前編はこちらからご覧いただけます。
『生花の彩りと息遣いに触れ、美的感覚を揺さぶる』